スペシャル対談 Vol.1

スペシャル対談Vol.1

互いの尊敬が生み出す
豊かな暮らしの空間

  • 株式会社ニカク工務店
    代表取締役
    二角康和
  • T-Square Design Associates
    代表
    津田茂
  • 二角康和
    株式会社ニカク工務店
    代表取締役
    二角康和
  • 津田茂
    T-Square Design Associates
    代表
    津田茂

ニカク工務店と建築家が一緒にコラボするようになったきっかけをお聞かせください。

二角: 二カク工務店は、もともと自社で設計をしていました。でも、あるとき「ああ、うちの建物は平凡やな。他の会社とそんなに変わらない」と思ったんです。建築系の雑誌を読んでいた時、「これは別世界のことや」と考えていましたが、友人が建築家にオーダーをして建てた家を見せてもらうと…。やっぱりこれは違う!と気付きました。そこから建築家にデザインをお願いして、弊社で施工をする形に業務を切り替えたんです。

そんな経緯があったのですね。
建築家と工務店がコラボレーションするメリットはどのような部分でしょうか?

津田

二角: 自分たちの会社の中で設計を担うと、コストのことを考えて、自分たちが建てやすいとか、大工さんがやりやすいとか、そんなことを考えてしまいます。でも、建築家はデザインをするときに、建てやすさとか予算を超えて、「良いものをつくりたい」気持ちだけで仕事をしてくれます。また、工務店とは空間に対する発想が全く違うため、想像以上に素晴らしいデザインが上がってきます。

津田: でも、これは建築家の力だけではありません。私たちが設計デザインしたものを形にしてくれる職人さんが、ニカクさんにはいらっしゃるからできること。昔ながらの職人気質の方の仕事って、とにかく正確で丁寧。
ニカクさんは、寺社仏閣などの施工も行っているので、精密な仕事をこなせる職人さんがたくさんいます。 例えば、洋服をオーダーメイドすると、ステッチの幅がどうだとか、本当に細かいことでも気にかけてデザインをして仕立ててくれますよね。そんな風にデザイン画をきちんと形にできるのがニカクさんなんです。今、そんな職人は減っていますが、ニカクさんは自社の職人を抱えて、技術を継承していらっしゃいます。自分の会社に技術を残していくって、並大抵のことではありません。

二角: 無骨な職人たちなので、無愛想やったりもしますけどね(笑)

津田: そこが信頼できますよ。建築家も設計図面を描くとき、工務店さんの力量を推し量りながら上げることもあります。ニカクさんなら「これでもやってくれるだろう」と、絶大な安心感があるんです。

二角

双方、仕事へのリスペクトを感じます。印象に残っている物件のエピソードを教えてください。

津田: 地下に能楽堂のあるビルでしょうか。これは、私の代表作と言っても過言ではないくらい、印象的な仕事でしたね。

二角: 私たちの会社では、ビルや共同住宅の事業計画のご相談などをお受けしていて、その中で出会った案件です。能楽師の方から依頼を受けた時に真っ先に浮かんだのが津田先生でした。津田先生はアメリカでの生活が長くて、実は日本語より英語の方が得意なくらい。そんな建築家をマッチングさせたら、絶対に面白いものができると思ったんです。

津田: 能を見たこともない、伝統も文化も理解していない人材をね(笑)。だから、めちゃくちゃ勉強しました。能楽師の野村萬斎さんのご自宅にもお伺いし、たくさんのことを教えていただきました。日本中の能舞台を見学に行き、いろんなことを調べて分かったことは、伝統芸能も時代に合わせて、形を変えているということ。古いものを大切にする中で新しいものを取り入れて、また新たな伝統をつくっていけばいいと考えました。

二角: そうしたら、地下に能舞台ができた、というわけです。

津田: 能舞台をつくる仕事なんて、そうそうあるものではないです。本当にいい経験をさせてもらいました。ニカクさんは伝統建築に対する知識と技術が素晴らしく、私の設計図面に対し「この柱はもう少し細くした方が美しい」とか、木材の目利きであったり、さまざまな意見をくださる。建築家としても成長する機会をたくさんいただきました。

二角

能楽堂もそうですが、難しいオーダーがきた場合は、お二人でどのように進めていくのでしょうか?

津田: まずは設計で考えてから「こんなことはできますか?」とニカクさんに相談・確認をして進めています。本来、建築家と工務店が協調し合いながら、仕事を進めていくのって珍しいこと。予算のことや工法だったり、ぶつかることの方が多いと聞きますが、ニカクさんとのお仕事ではそんなことはありませんね。

二角: だって、良いものができると嬉しいじゃないですか。二者が歩み寄って、良いものをお客様にお引き渡しすることしか考えていないです。

二人が本当の意味での〝プロのお仕事〟に取り組まれていると拝察します。
では、建築をお考えの方にアドバイスやメッセージをお願いします。

津田: 日本でもようやく建築家に設計を依頼する方が増えてきましたが、まだまだハウスメーカーを利用される方がほとんどです。また、メーカーや工務店で無理だったことをなんとか解消してくれるのが建築家だと思っている方も多いように感じます。海外では、建築家へのリスペクトを込めて、あえてオーダーせずにおまかせします。彼らは土地や風土から感じたインスピレーションで設計し、提案します。二角社長の冒頭のお話でもありましたが、建築家にまかせると想像以上に良いものが出来上がると思います。そう意味でも、建築家選びってすごく重要。ニカク工務店さんの「建築家と建てる家」のように、建築家をうまく使って住まいづくりを楽しんでもらえたら嬉しいです。

二角: 「建築家と建てる家」を始めたのも、誠心誠意、良いものをつくるためです。「ニカクと知り合って良かった」と思っていただきたいから、投げやりに仕事をすることはありません。「やって良かった」「建築家に頼んで得した」と、10年後のお客様の幸せを考えて、これからも建築の仕事に向き合っていきたいと思っています。

ライター 岡田 有貴
カメラマン 久藤 美智子

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