スペシャル対談 Vol.3

スペシャル対談Vol.3

制限や制約があるからこそ
面白いデザインが生まれる

  • コンパス建築工房
    建築家
    西濱浩次
  • 株式会社ニカク工務店
    代表取締役
    二角康和
  • 二角康和
    株式会社ニカク工務店
    代表取締役
    二角康和
  • 西濱浩次
    コンパス建築工房
    建築家
    西濱浩次

仕事をご一緒するようになったきっかけは?

二角: 私がPM+(ピーエムプラス)という別会社を10年ほど前に設立した際、西濱先生をご紹介いただいたことがきっかけでしょうか。

西濱: それまでも建築家設計の住宅を提案する「ASJ(アーキテクツ・スタジオ・ジャパン)」という団体がありましたが、二角さんは住宅に限らず大型建築やマンションも建築家と共に手がける会社を設立するということで、それに適した建築家を探しておられました。私が元々、ビルやマンションの仕事をたくさんやっていたことからご縁をいただきました。

二角: アトリエ系の設計事務所で大型の建築を手がけているところが少ないんです。さらに、西濱先生のように経験豊富な方はなかなかいらっしゃらない。

西濱: バブルの時代、デザイナーズマンションと呼ばれるものが出始めたころから関わってきたものですから。

西濱先生の建築家としてのスタートについて教えてください。

西濱: 大学を卒業後はオイルショックの時代で就職難でした。希望する会社に就職できず、中小ゼネコンの設計部に入りました。そこで7〜8年勤めて、アトリエ系の事務所に2年。31歳で独立して今に至ります。

二角: 店舗や集合住宅、一般住宅、何でも設計されます。

西濱: リフォームもやりますし、マンション、ホテル、学校と幅広い仕事をしています。

西濱浩次

二角: テレビ番組でご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、「リフォームの匠」ですからね。先生にお願いすれば、どんな物件も対応していただけるので、ニカク工務店にとっては大変ありがたい存在です。

二角と西濱

西濱先生は「匠」としても知られていますが、二角社長はどんな部分に“凄さ”を感じていらっしゃいますか?

二角: こういう仕事では、よくあることですが、行政の指導が入った時の先生のお仕事ぶりに、それはもう……感服しましたよ。
古い建物のリフォームは、法律の解釈も難しいんです。他の建築家だったら逃げ出していたかもしれないような案件も「先生、これは弁護士に依頼しはったんですか?」というくらい説得力のある文面を自ら用意して来られます。

西濱: 古い建物の改修の際は、法律的にもクリアできるように、ちゃんと裏付けを取って行政の方に説明をします。説得に近い感じですけれども(笑)。もうダメかもと思った案件でしたが、今やお墨付きの建物になっています。

二角: 本当にびっくりしました。

二角康和

西濱: 建築には必ず微妙な部分があるんです。法律で定められた「これはダメですよ、これはいいですよ」と、白黒はっきりしているものはいいのですが、やっぱり一から造るものですからグレーの部分もあります。「黒じゃなかったら、設計者の判断で進めさせてください」と、説明できる経験と知識ですね。

二角: こんなことができる建築家は、西濱先生だけだと思います。

経験の豊富さだけでなく、西濱先生の作品は、デザインがどれも素敵です。

二角: デザインの幅も広い!

西濱: 四角く作りたいと思っていても、いろんな制限で斜めに建物が削られるとかあるんです。ならば、それを利用して何か面白い形にできないかなというふうに考えていきます。制限に応じて無理に変な形を作るのではなく、「規制があるから、この形が生まれるんだ」とか、「こういう考え方もできるんだ」というところから、今までにない新しいものが出来上がったりします。
当たり前に建てられるものより、ちょっと問題がある方が面白い仕事ができる気がします。

二角: ものすごく狭い土地だったり。

西濱: そうです。ノコギリ型の土地とか、崖とか。そんな案件もあれば、先日、担当した学校の食堂の改修では、食堂を営業しながら、夏休み期間中に全面改装するなんて、とても難しい。厨房を止めずに、どうすれば1ヶ月半で改修できるのか考えました。難しい条件をどのようにクリアしていくのか、プランを組み立てながら進めていきました。本当は、天井を全部やり変えたいけれど、営業を止めることはできない……。じゃあ、天井を真っ黒に塗って、照明器具をぶら下げて古い部分が見えないようにしようとか。大きく触れなくても、短い工期で新しいイメージに仕上げることもできます。また、予算が潤沢にある物件というのは、ほとんどありません。ローコストで完成させようと思ったら何ができるのか。条件に合わせて、とにかく考えますね。

二角と西濱

西濱先生の建築への向き合い方は、二角社長とも通じるものがありますね。

二角: 西濱先生なら、何とかしてくれる。そんな風に思っています。建てる側としても、それはとても心強いことなんです。

西濱: それは、こちらも同じで、大工さんたちがすごく腕がいいし、要所要所、きちんと確認をしてくださいます。自分で「これでいいだろう」と勝手に進めてしまう工務店も多い中で、ニカク工務店の皆さんはそういったことがない。私も心強いです。

二角: 弊社では、大工さんをお給料の形で雇っています。請負で「この仕事はいくら」となると、大工さんも焦ってしまう。建築家の難しく、時間のかかる仕事を嫌う傾向にあります。だから、大工さんには「時間がかかっても給料に関係ないから、ゆっくりやってほしい」と伝えているんです。それもあって、建築家の先生にちゃんと確認をしてくれるんだと思います。

西濱: それが後々、細部で違ってきます。僕たちもやり直してもらうのは、すごく嫌なんです。だから大工さんに聞いてもらえたら「こうしよう」とか、大工さんから「これは難しい」と言われたら、代替案を相談し合ったり。そこを勝手に進められてしまうと、後で取り返しのつかないことが起きたり、やり直しが発生したりしてしまうんです。最後はお施主様に迷惑をかけてしまいますからね。

二角と西濱

これまでのニカク工務店の仕事で印象に残っているものはありますか?

西濱: 京都の出町柳駅近くの集合住宅でしょうか。550坪ほどある敷地の再開発ですね。二角社長と一緒に企画から取り組みました。

二角: 西濱先生の発想で、マンションの中が丸く抜けているんです。マンションの難点は、ベランダが景観を崩してしまうことなのですが、目立たないようにうまくデザインをしてくださいました。外観もマンションか何の建物かわからないデザインで、これぞアトリエ系の建築家に建ててもらう醍醐味だと思いました。こういう建物を今後も増やしていきたいですね。

西濱: お施主様は、元々は普通の一般的なマンションを建築しようと計画されていました。でも、普通のマンションを建ててしまうと、その先、将来の競争力がなくなっていきます。建てた当初は、新築という魅力がありますが、周囲に新しいものが建つと価値が下がってしまうものなんです。そうなると、家賃を下げるしかなく、「割安」という魅力をつけるしかなくなってしまいます。でも、空間として特殊なものを造っておくと、競合しないため、いつまでも価値が下がらない。私も長くマンションの設計に携わっていますが、「ずっと満室で稼働しています」と言っていただけるのが、一番嬉しいですね。

二角: どんな建物を作るのか判断を間違うと、負の遺産をずっと抱えることになってしまいます。私たちは、建築家デザインの付加価値を皆さんに知ってほしいと思っています。

ライター 岡田 有貴
カメラマン 久藤 美智子

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